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忘れられる、キスを
第37章 露天風呂
「せっかく露天付きなんだし、お風呂、入ろっか」

なかなか泣き止まない私を宥めすかし、星くんが言った。
素っ裸の私を抱きかかえ、脱衣所を抜け、洗い場へと運んでくれる。

「タオルとか着替えとか用意してくるから、先、洗って入ってて」

洗い場の椅子の上に私を下ろし、そのまま部屋へと戻ってしまう。
頭からシャワーを浴び、身体を流す。
熱めのお湯が心地良く、だんだんと心が落ち着いてくる。

どうして、こうなっちゃうんだろう。
星くんに苦しい思いばかりさせてしまう。

頭から爪先まで洗って、湯船に入る。
街からは少し離れた所にある宿のためか、外はただ、暗闇が広がっていた。

「お待たせ、先輩」

星くんが声をかけて、入ってくる。
その身体を直視するのはやっぱり憚られて、私はまた背を向けてしまった。

「そんな、今更、でしょ」

ささっと身体を洗った星くんが湯船に入り、私を引き寄せる。

「ごめんね、本当に。そんなに痛いと思わなくて」
「ち、ちが…う、の」

え、と星くんが戸惑い顔になる。
違う、ともう一度言う。

「星くんのせいじゃない、の」

佐野さんにされたことを、思い出したの。
怖くて、痛くて、気持ち悪くなる、あの感触。

だから、星くんのせいじゃない。

伝えたいのに、声が喉に張り付いて、全然出てこなかった。
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