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忘れられる、キスを
第37章 露天風呂
「あの、ね」
「うん」
「星くんは、悪くなくて…」

うん、と星くんが頷いて、私の言葉を待ってくれる。
ゆっくりでいいよ、と濡れた髪に触れた。

深呼吸を、一回。
ちゃんと、伝えないと。

「さっき、あの、時のこと…思い出して…」

瞼の裏に、その時のことが、ばっとフラッシュバックする。
お湯の中で、きゅっと星くんの指を握る。

「指…痛かった、の…思い出しちゃって…それで…」
「指……」

星くんが、はっと息を飲む。
指先が、震える。

「指、中に…」
「いいよ、もう…っ」

私の言葉を遮り、がばっと抱きしめられた。
ざぶりとお湯がはねる。

「嫌なこと、思い出させた…」
「ううん……ごめんね、こんなこと言って…」

お湯の中で、肌が密着する。

「や、じゃ、ない?」
「え?」
「私の、こと」

なんで、と心底不思議そうな顔で言う。

「……先輩は、嫌なの?俺のこと」

そんなこと、あるわけない。
嫌なんて、そんなこと、ない。

ぶんぶんと、首を横に振る。
良かった、と星くんが笑った。

「俺は、先輩のこと、嫌になんて、ならないよ。何度も言ってるでしょ」

そう。
何度も。
身体に、心に、刻み込むように。

分かっているのに。
何で、こんなことを聞いてしまったのだろう。

「ごめん、なさい…」

掠れた声が、出た。
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