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忘れられる、キスを
第1章 バレンタインデー
サークルのメンバーは思ったよりも多くて、各学年に5人前後いた。
メンバー同士の仲も良く、学年の別なしに、事あるごとに飲み会が開かれた。

ピアノサークル、とはいえ、扱う楽器は様々で、先輩のようにグランドピアノでクラシック、という人もいれば、エレクトーン、シンセサイザー、オルガン…などなど多種多様の鍵盤楽器を楽しむサークルだった。

年1回の定期演奏会の他にも、他サークルのバンドやアンサンブル団体から助っ人を頼まれることもしばしばあり、特に先輩はクラシック系の団体からは引っ張りだこだった。

先輩の演奏を聴けば聴くほど、憧れのような、思慕のような、そんな気持ちが強くなっていた。

同時に、先輩にかっこ悪い所は見せられない…!という気持ちも強くなり、私は人生でこれほど練習したことはない、というくらい練習に打ち込んだ。

そんな私を見て、先輩は

「いつも偉いね。すごく、上手くなったよ」

なんて、褒めてくれるものだから、先輩に褒めてもらいたいという至極不純な動機でますます練習に力が入った。

そして、先輩がサークルを卒業する最後の演奏会。
私は先輩と連弾をすることになったのだ。
ピアノを弾いてきて、後にも先にも1番幸せな時間だった。

1番近くで、先輩の音を聴ける。
触れ合うか、触れ合わないかの、微妙な距離で。
先輩の息遣いも、瞬きも全部分かる。
私の心臓の音も、聞こえてしまうんじゃないだろうか。
そんな不安さえある、近さだった。

本番の演奏が終わった後、先輩は舞台上で小さな声で言った。

「ありがとう、一緒に弾けて楽しかった」

ふわりと笑う、私の大好きな笑顔。
私だけに向けられた、笑顔。

「私も、です…」

どきどきして、それだけ言うので精一杯だった。
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