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忘れられる、キスを
第4章 衝動
どれくらい時間が経ったのだろうか。
しゃくりあげる声が小さくなり、やがて治まってきた。

「えっちゃん先輩…?」

恐る恐る声をかける。
先輩は、ごしごしと目尻をこすり、ゆっくり半身を起こした。

「ね、寝ますか…?」

我ながら間抜けた質問だ。

「星、くん」
「は、はい」
「ごめん…ね」

先輩が小さな声で言った。

なんで。
謝らなきゃいけないのは、俺なのに。

「か、風邪引いちゃうんで、ふ、服…」

脱がせたのは俺だけど。
先輩は半裸の自分に気付いてパジャマの前を慌てて合わせた。

「星くんも、寝る…?」
「あ、お、俺は床で寝る…ので…」
「風邪…ひくよ…?」

先輩の右手が俺の部屋着の裾を掴む。

「でも…」
「何もしない、なら」

先輩がもそもそとお尻をベッドの端の方へ動かす。
俺がそっとベッドの端に腰掛けると、ぴくりと肩が揺れた。

「やっぱ、やだったら、床で寝ますよ、俺」

そもそも、先輩を家に連れて来た時からそのつもりだった。
こうなったのは、自分でも予想外だったのだ。

「ん…いい…平気…」
「でも…」
「一緒に…寝て…」

また、きゅっと裾を掴まれる。
なんだってこの人は…
自分を襲いかけた…てか完全に襲った男と再び床を共にしようとしてるとか、正気の沙汰じゃない。

ああ、俺も先輩も正気じゃないのか。

俺は片手を伸ばして電気を消すと、先輩に身体が触れないよう、ベッドに滑り込んだ。
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