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忘れられる、キスを
第4章 衝動
「星、くん…」

暗闇の中で先輩の声がする。

「いきなり、泣いたりして、ごめんね」
「そ、そんな…俺…」

もう一度謝ろうと、がばっと半身を起こす。
が、先輩は、いつの間にかすうすうと小さな寝息を立てていた。
ついさっきまで起きていたのに。
泣き疲れたのかもしれない。
頬に触れると、涙で濡れてしっとりとしていた。

「えっちゃん先輩…ごめんね…」

小さい声で言って、そっとその頬に口付ける。

あ、またやってしまった…

自制の効かない自分に頭を抱える。
なにしてるんだか。
自嘲気味にひとりごちる。

「ん…くら…た…せん…ぱい…」

寝言。
倉田先輩。
なんでそんなに好きなんだよ。

先輩の心には倉田先輩がいる。
そんなことはずっと前から分かり切っていて。
今日も、嫌になるほど思い知ったのに。
寝言まで言うか…?

先輩の顔に落ちる髪の束を指で掬う。
相変わらず、規則正しく、すうすうと寝息を立てている。
そういえば、先輩の寝顔を見るのは初めてだ。
ほんと、無防備。
額にまた、キスをする。

全然学習しないな、俺。

布団を深く掛け直し、くったりと力の抜けた先輩を抱き寄せる。
身動ぎもせず、規則正しい寝息を立てる。
その愛しい寝顔にもう一度だけ口付けて、目をつむると、俺も眠りに落ちていった。

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