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忘れられる、キスを
第38章 迂闊
部屋へ戻ると、先輩が心配そうな顔でこちらを振り返った。

「具合、悪いの?顔、ちょっと赤い…」

そっと頬に触れられる。
それだけで、心拍数が上がる。
まるで、乙女。

「大丈夫。風呂、俺も入ってくる」

さっきの行為を悟られたくなくて、ぶっきらぼうに言う。
脱衣所に浴衣を脱ぎ捨て、駆け込むように風呂場へ入った。
ざざっと身体を流し、湯船に沈む。

迂闊だった。
よりによって、先輩の名前を呼ぶなんて。

思い返すだけで、顔から火が出そうだ。
先輩は、気付いただろうか。
どっちにしても、合わせる顔がない。

けれども、いつまでも風呂に篭っているわけにもいかず、のろのろと身体を拭いて、浴衣を着直す。
部屋へ戻ると、先輩は布団の上に転がり、すうすうと寝息を立てていた。

ほんと、無防備だよな。

ため息とともにひとりごちる。
危機感なんて、まるでない。
嬉しい反面、ちょっと複雑だ。
俺を、男として意識していないのだろうか。

素肌に浴衣だけ、なのは昨晩から変わらず、その姿は俺を駆り立てる。

「せーんぱい、起きなよー」
「ん、う…」

耐えきれず、覆いかぶさり、抱きしめた。
ぱちっと先輩が目を開ける。

「朝ごはん、行く?それとも、もう少しごろごろする?」
「…ごはん」

えー…と不満の声を上げた俺を、先輩が押し返した。
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