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忘れられる、キスを
第38章 迂闊
「もう、早く、ご飯行こうよ」

名残惜しくて、少し浴衣のはだけた胸元に鼻先を押し付けていた俺を先輩がせかす。
浴衣の上から触れれば、やはり、下着はつけていないようだ。
こんな状態で部屋の外へ出ようとしているのだろうか。

「先輩、ブラつけてないから、誘ってるのかと思った」
「な…ば、ばか…そんな…」

見る間に顔を紅くする。
そんなに恥ずかしがるなら、風呂から上がった時につければいいものを。
そういうところが、俺を複雑な気持ちにさせる。

「ちょ、ちょっと待って…」

俺の腕からすり抜け、ぱたぱたと洗面所の方に行ってしまう。
戻ってきた先輩は、浴衣もしっかり直して、髪も整えていた。
化粧っ気のない素顔が嬉しい。

「朝ごはん、何かな。バイキングなんだっけ?」
「うん、色々出るみたいだよ」

にこにこしている先輩につられて、頬が緩む。
食欲も戻っているみたいで、安心した。

7時過ぎ、という比較的早めの時間ではあったが、朝食会場はかなりの人がいた。
めいめい好きなものを取って、席へ着く。

「先輩、なんか、よく食べるね」
「ここのご飯、美味しくて」

照れたように、笑う。

「またご飯粒、ついてるよ」

先輩が、ここ、と自分の口元を指す。

「取ってくれないの?」
「…自分で、どうぞ」

うーん、学習されると、ちょっとさみしい。
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