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忘れられる、キスを
第38章 迂闊
のんびり朝食をとり、部屋へ戻って荷物をまとめる。
チェックアウトまではまだ少し時間があったが、少し離れたところにある美術館へ行きたいと先輩がいうので、早めに出ることにした。

バス停までの道を、早く、と手を引かれた。
ふわりと風に揺れる白いワンピースが、まぶしい。

「先輩」
「ん?」
「似合うね、それも」

ちょっと首を傾げて、ありがとう、とはにかんだ。
このワンピースも、先輩のクローゼットから俺が選んだものだ。
我ながら、ものすごい独占欲。
思わず苦笑いしてしまう。

先輩と訪れた美術館は、童話の世界をモチーフにしているところだった。
俺はタイトルくらいしか知らないけれど、先輩は楽しそうにあれこれ見て回っている。
時折、こちらを振り返ってはにこにこ笑い、こういう場面がある、とか、この台詞が好き、とか、いつもより饒舌だった。

「ごめんね、付き合わせちゃって」
「いいよ、結構おもしろかったし。それに、先輩、楽しそうだったし」

ありがとう、とまたはにかんだ笑みを見せる。

そうそう。
先輩は、そうやっているのが一番。
そんな顔してくれるなら、何だってするよ。

「近くで、昼、食べてから電車乗ろうか」

先輩が、うん、と向日葵みたいに笑った。


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