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忘れられる、キスを
第43章 すれ違い
「あ、あの…わた、し…」
「…帰るね」

ふいっと視線を逸らされた。
足元に畳まれていた毛布をふわりと私に掛けると、星くんはなにも言わず部屋を出て行った。
がちゃん、と嫌な音がして、玄関扉が閉まる。

ベッドの上に一人取り残された私はしばらくの間ぼんやりそこで座り込んでいた。
それから、のろのろと手近な服を羽織り、くしゃくしゃっと投げ捨てられたスカートや下着を拾った。
星くんが無理矢理脱がしたブラウスのボタンがテーブルの下まで転がっている。

このブラウス、お気に入りだったのに。

綿の柔らかな手触りと着心地の良さが好きだった。
引っ張られたことで、小さなボタンが三つも取れ、形も歪んでいる。
皺を伸ばしたら、また、じわっと涙が溢れてきた。

私がぐずぐずしていたから。
曖昧なままにしていたから。
ズルいことをしたから。

星くんが、待つって、言ってくれていたから。
何も言わなくても、優しく抱きしめてくれたから。

言い訳をするように、思いは、浮かんで、消えていく。

「星くん…」

溢れた涙が止まらない。
抱きしめたブラウスに顔を埋めた。

今になって、分かる。

本当は、きっと、ずっと前から。
私は、星くんが、好きだ。
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