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忘れられる、キスを
第44章 冷却
聞き覚えのある声に振り向くと、声の主は「あ、やっぱりそうだ」とにっこり笑った。

「く、倉田…先輩…」
「もしかして、就職、うちの会社に?」

なんで、よりにもよって。
今会いたくない人ナンバーワンがここに…?

一瞬訳がわからず、はっと思い出す。
倉田先輩は、この会社の社長の息子だ。
何で今いるのかは分からないけれど…

「父に呼び出されてね…」

俺の考えを読んだかのように、倉田先輩が言った。

「深町さん、足、平気?」
「え、あ…はあ…」

あの日から一度も連絡していない、とは言えず曖昧に濁す。

「あ、この前は文化祭、お疲れ様。すごく良い演奏だったよ」
「ありがとう…ございます……」
「良かったら、このあと飯でもどう?」

爽やかな笑みを向ける倉田先輩に、白々しさを感じてしまう。
あの日、えっちゃん先輩と、何をしていたか、どんな話をしたのか、そればかりが気になってしまう。

夕方再び、倉田先輩とおちあい、会社の近所の立ち飲み屋に入った。
なんとなく、倉田先輩のイメージにはないような大衆居酒屋だ。

「お洒落なところは肩凝っちゃうし、こっちの方が気楽でしょ」

またしても俺の考えを読んだかのように先輩が言った。
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