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忘れられる、キスを
第5章 優しさ
首を伸ばして枕元の時計を見ると、液晶パネルは午前4時を過ぎたことを示していた。

「星、くん」

もう一度、呼ぶ。
けれど、くうくうと規則正しく寝息を立て、起きる気配はない。

二人で使うには狭いベッド。
一晩中めそめそ泣いて、酷い拒絶をして、それでも「一緒に寝て」なんていう、そんな面倒くさい女を、星くんはずっと抱きしめていてくれたのだ。

『一人で、泣かないで』

そう言って、抱きしめてくれた星くんの優しさに甘えてしまった。
心の中は、倉田先輩でいっぱいなのに。
私のことを好きだと言ってくれた星くんに、淋しさから寄りかかってしまった。
ズルい女だ。
そんな自分に、ほとほと嫌気がさす。

「ごめんね、こんな先輩で…」

無垢な寝顔に声をかける。

昨日、私を求める顔は、男の人のそれだったのに。
寝顔は同じ人とは思えない純真さ。
暗闇に、目が慣れてきて、ぼんやりしていた顔のパーツも少しずつはっきりしてくる。
睫毛、長いな。

ぼんやりそんなことを思っていたら「んん…」と身じろいで、私を抱きしめる腕に力が入った。

「えっ…ちゃん…せ……ぱ…」

寝言で呼ばれ、どきりとする。
鼻先にある胸元から立ち昇る石鹸の匂いを、すっと吸い込む。

ああ、私、何やってんだろ。

僅かな自己嫌悪を感じながら、それでも、あと少しだけ…と彼の固い胸に頭を押し付け、もう一度眠りに落ちた。


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