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忘れられる、キスを
第5章 優しさ
「あの、えっちゃん先輩」

顔を洗ってさっぱりとした様子の星くんが後ろから呼んだ。

「なあに」
「き、昨日は本当にすみませんでした…!」

ぴたっと身体の横に手を揃えて、深く頭を下げる星くん。

「あ、あの、私、その…」

ごにょごにょと口ごもる。
顔が紅くなるのが分かる。

「あ、あんまり…そういうの、経験、なくて…そ、それで、ちょっと、び、びっくりした…だけ、だから…」

ああ、もう。
なんでこんなこと言っちゃうかな。
処女だって、言ってるのと同じだよ。

恥ずかしさで、身体が火照る。
星くん、ちょっと困った顔してるし。
そうだよね、さすがにこの歳で処女は…引いた…よね…

でも、ちゃんと、お礼も言わなきゃ。

「昨日、ありがとう。ずっと一緒にいてくれて」

これは、本当。
きっと、あのまま家に帰ってたら、朝まで一人で泣いて、今日もまた泣いて過ごしてだと思う。
でも、星くんがいてくれたから。
昨日だけで、だいぶすっきりした。
現金な話だ。

心なしか、星くんの表情がさっきよりも緩んで見える。

気のせいかな。
そんなことを考えていたら、きゅーっとお腹の鳴る音が響いた。

えっ、私の…?

途端にまた顔が紅くなるのを感じる。
そういえば、朝ごはん作ろうとして、冷蔵庫開けたらインスタントコーヒーとビールしか入っていなかったんだ。
とりあえずコーヒー淹れたんだけど、まさかこんな盛大にお腹を鳴らすとは。

見ると星くんがくっくっと肩を揺らしている。
こいつ…

「コーヒー飲んだら、朝ごはん、食べに行きましょ」

目尻に涙を溜めながら星くんが言った。


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