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忘れられる、キスを
第47章 遠慮
自分の抱えた薄暗い気持ちを、星くんに、知られたくなかった。
会えば、きっと、こぼれてしまう。
好きも、辛いも、苦しいも、全部、ぶつけてしまいそうで、自分が怖い。

『さっきは無理言ってすみませんでした。クッキーありがとうございました!』

帰りの電車の中でメールの着信に気づいた。

「ごめんね…嫌な女で…」

ひとりごちて、またぽろぽろと涙がこぼれてしまう。
泣いていることを知られたくなくて、マフラーに深く顔を埋め、下を向く。

いつも、こうだ。
星くんに迷惑をかけてばかり。
嫌な思いをさせてばかりいる。
星くんに寄りかかって、甘えてばかりだ。

いつからだろう。
私はもっと、強い人間だと思ってたのに。

一人で、立っていられると思っていたのに。

気付くと星くんに寄りかかっている。

側に、いてほしい。
私のことだけを、みてほしい。

子どもみたいな独占欲。
お腹の奥でくすぶる嫉妬心。

ほんのちょっとしたことで芽生えたそれは、瞬く間に大きくなっていく。

文化祭の後の星くんも、こんな気持ちだったの?
倉田先輩と一緒にいる私を見て、こんな風に、苦しくなったの?

あの時の星くんを思い出すと、なおのこと、この気持ちを抱えて星くんには会えなかった。
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