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忘れられる、キスを
第48章 距離
「…あっそ」

すっと、腕が離される。

「…ん、ごめん。困らせて」

急にしおらしく謝られてこちらが困惑してしまう。

「別に、ね、期待はしてなかったの。ただ……ただ、ちゃんと、伝えたかっただけ」

このまま卒業するのは悔しいから、と自嘲気味な笑みを浮かべた。

「すっきりした。じゃ、あんたはなんとか先輩とお幸せに」

くるりと踵を返して崎本がアパートの階段を軽やかに降りて行く。

「崎本!」

思わず呼び止めると、こちらを振り向かず、ぴたりと止まった。

「……気持ちに応えられなくて、ごめん。でも、ありがと、な」

崎本はひらひらっと後ろ手に手を振ってそのまま駅の方へ行ってしまった。

すっかり冷え切った身体をさすり、部屋へ入る。
中の空気もひんやりとしていた。

『ただ、ちゃんと伝えたかっただけ』

崎本が真っ直ぐこちらを見て言った言葉が脳内でリフレインする。

ああ、そうだ。
俺も、ちゃんと伝えなきゃ。
それで、ちゃんと、決着をつけよう。

ケータイを手に取り、何度となくかけた番号を呼び出す。

……電話、出てくれるかな。

指先が、迷う。

何を怖気付いているんだ、俺は。
迷うことないじゃないか。

いつになく弱気な自分に溜息が出た。
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