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忘れられる、キスを
第49章 キス
「あ、そうだ。明けましておめでとうございます」
「あ、明けましておめでとう…」

お詣りしよ、と私からボストンバッグを奪い、参道を進む。
参拝を済ませ、参道を戻り、石段を降りる。
家まで、という星くんの言葉に甘え、そのまま荷物を持ってもらうことにした。
歩きながら、私は何を話すべきか、考えあぐねていた。
星くんも、何も喋らない。
そうこうしている間に、家に着いてしまった。

「はい、じゃあ、俺は帰るね」
「え、あの…」

てっきりそのまま上がっていくのかと思っていたので、慌ててしまう。

「帰る、の…?」
「ん、帰る」

そっと離された手が寂しい。
荷物を持ってもらったお礼も口から出てこない。

「あ、そうだ」

帰りかけた星くんがくるりと振り向き、私の鼻先にすっと一枚の紙切れを差し出した。

「これ、二月の定期演奏会のチケット。絶対、来て?」

ぐっと真正面から見つめられる。
有無を言わさないその目力にこくりと頷いてしまう。

「先輩に…えっちゃん先輩に、伝えたいこと、あるんだ。でも、言葉じゃきっと、伝わらないから…」

だから、と言葉を切る。

「えっちゃん先輩のためだけに、弾くから」

それだけ言うと、くるりと背を向け、帰ってしまった。
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