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忘れられる、キスを
第49章 キス
一年間の集大成ともなる今回の演奏会はどの子も気合いの入った熱演を見せていた。
舞台の上に立つ奏者は誰もがキラキラと輝いて見える。

星くんの演奏は短い休憩を挟んで、後半の二番目だ。
順番が近づくごとに、まるで自分が弾くかのようにドキドキと緊張が高まる。

とうとう出番が回ってきた。
拍手で迎えられ、ピアノに手を添えて一礼する星くんの表情は珍しくどこか緊張しているようだ。

椅子に座り、深呼吸をする。
一瞬の静寂ののち、星くんの指先が鍵盤の上を滑り出した。

情熱的な愛の調べに、あっという間に、引き込まれ、囚われてしまう。
星くんの指先から紡がれる音が、私の心と身体を満たしていく。

ああ、どうして分からなかったんだろう。
こんなに、想われているのに。
不安になることなんて、何もないのに。

痛いほどに感じられる星くんの想いが嬉しくて、嬉しくて、それに応えてこなかった自分が恨めしい。

最後の一音が収まり、一瞬の静寂の後、ぶわっと割れんばかりの拍手が鳴り響く。
その拍手に驚いたように星くんが顔を上げた。

最初と同じ様にピアノに手を添え、一礼する。
鳴り止まない拍手に二度、三度と礼をして、正面に向き直ると、すっと人差し指を立てた。

もう一曲、とでも言うように。
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