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忘れられる、キスを
第53章 ふたりぐらし
「絵津子さん…?大丈夫?」

座り込んで、小さな子どものようにしゃくり上げながら泣き続ける先輩の背中を撫でる。

「だ、だめ…って、いった…の、に…」
「ごめん…」

こんなやり取りをもう何回繰り返したのだろうか。
先輩の困り顔や泣き顔に加虐心が煽られて、つい、つい、つい、やり過ぎてしまう。
辱めて、ぐちゃぐちゃにして、それを抱き締めたいと思う俺はどこかおかしいのかもしれない。

「感じまくってるの、可愛いから…つい…」
「か、かわいくっ、な、ない…っも、ん…」
「可愛いよ、絵津子さん、可愛い」

ぎゅっと抱きしめ、涙でぐちゃぐちゃの顔にキスをする。
下向きの長いまつ毛に水滴がついて綺麗だ。

「ほし、く……」
「ん?」
「よ、よごれちゃ…う……」

真っ赤な顔で、床の水溜りを見つめ、ごめんなさい、と消え入りそうな声で言う。

「ま、また、も、漏らしちゃっ…た……」
「俺のせいだから。俺がそうさせたんだよ、絵津子さんの失敗じゃない」

濡れてしまった足と床を拭いてから、先輩を洗面所の外へと連れ出す。

「お風呂準備するから、待ってて」

縋るような瞳が何とも離れがたい。
額にキスをひとつ落として、洗面所へ戻った。
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