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忘れられる、キスを
第53章 ふたりぐらし
***

「ごめんね、昨日…」

狭い湯船の中で星くんが言った。
星くんに預けた背中が温かい。

「俺、ずっと、してなかったから、帰ってきてすぐ…我慢できなくて……」

昨夜と今朝の痴態がまざまざと思い出される。

「帰ってきたら、絵津子さん、後ろから見て、すっごい綺麗だったから、なんか…どうしよう、って俺…」

急にしおらしくなる星くんが愛おしい。
振り向くのは躊躇われて、自分と星くんの爪先を見つめる。
くっつけた背中から心臓の音が伝わってしまっていないだろうか。

「なんか、イライラしてて、絵津子さんは、俺…の、って、思って……昨日、あんなに……」
「あの、ね…星くん、私……」

前に回された星くんの指先を握る。
心臓が、ドキドキする。

「わ、私も…っ、ほ、星くんと………ほし、くんと、し、した、かった…から……」
「ほんと?」
「ん…本当」

ぎゅうっと拘束が強くなる。
ちゃぷ、とお湯が揺れた。

「ずっと、忙しそうだったから、仕方ないって思ってたけど……昨日…し、したの………す、すごっ、く……き、もち、良くて…」

ああ、こんなの、のぼせそう。
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