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忘れられる、キスを
第53章 ふたりぐらし
「ち、ちが…そういうのじゃ……」

もう出る、と勢いよく立ち上がり、あっという間に浴室のドアが閉められた。
そっと脱衣所を覗くと、バスタオルを身体に巻き付けたまま、髪を梳かしていた。

「俺のもバスタオル取ってー」

声をかけて、腕だけ伸ばす。
すぐに渡してくれたタオルで手早く身体を拭いて出ると、髪を乾かし終わった先輩が下着を身に付けようとするところだった。

「や、まっ…見ちゃや…」

慌てて黒いレースのショーツがたくし上げられた。
見ないで、とバスタオルでぱっと胸を隠される。

「さっきまで一緒にお風呂入ってたでしょ」
「そ、それとこれとは…」

何が違うのだろうか。
何度身体を見せ合っても、何度肌を重ねても、こうして恥じらう姿にはどうにも弱い。
恥ずかしがらせて、最後には自分から俺を求めさせたい。
その欲求は止まるところを知らない。

「石鹸のいい匂い」

バスタオルを取り上げ、裸の胸の間に鼻を押し付ける。
二つの膨らみの尖端が、きゅ、と立ち上がっている。

「今日は、いいでしょ、お休みなんだから」

細い鎖骨に紅く痕を残したのと同時に、くうーっと仔犬の鳴き声のような音がした。
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