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忘れられる、キスを
第8章 約束
「今日は、一緒にいてくれる?」

少し、甘えてみる。
風邪の時くらい、いいよね。

先輩は迷っていたが、俺が「まだちょっとふらふらするんだよね…」とさも辛そうに言うと、ため息をひとつついて、泊まることを了承してくれた。

先輩のお泊まりセットの、パジャマの上衣とトランクス。
ばっちり洗って、畳んである。
先輩は何か言いたげだったが、シャワーから戻るとちゃんとそれを身に付けていた。

こんな身体じゃなかったら、今すぐ襲いたい…

先輩の白い足首を見て湧き出た不埒な思いを、頭を振って消し去る。

「寒いから、一緒に寝て」

先輩の右手首を掴む。
細いなあ。
あんまり強く掴むと折れそう。

「なんも、しない?」
「し、しないよ。俺風邪引いてるし」
「移さないでね」

努力します、と答え、一瞬先輩が油断したところを、抱きしめ、そのままベッドに入る。

「な、なんもしないって…!」
「寒いから、湯たんぽ替わりだよ。なんもしないから」

先輩はちょっと抵抗していたが、すぐに大人しくなった。
直前にシャワーを浴びていたので身体が温かい。

「なんで、風邪なんか引いたの…?大事な時期でしょ?」
「う…不注意で…」

まさか、先輩のコト、考えてたら下半身冷やしました、とも言えず、言葉を濁す。

気を付けなくちゃだめだよーと言って、先輩が目を閉じる。
程なくして聞こえてくる寝息。

この人、ほんと、訳わかんねえ。
俺のこと、何だと思ってんだよ。

はあーと深いため息をついて、柔らかな前髪に口付けると、俺もそのまま目を閉じた。

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