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忘れられる、キスを
第8章 約束
「……くん!ほし、くん…!」
「ん…まだ…」

薄目を開けると、心配そうな顔が俺を覗き込む。

「あ、せんぱ…い」
「おはよ」

にこっと笑う。
わあー…かわいいー…
先輩がお嫁さんだったら、毎朝こんな感じかあ…

しょーもない妄想に頬が緩む。

「具合どう?ご飯食べられる?」

先輩がベッドサイドに膝をついて、俺の額から熱冷ましのシートを外し、手を当てる。
先輩から受け取った体温計で熱を測ると、三十六度五分。
平熱に戻っていた。
身体も軽い。
食欲も、ある。
が。

「ちょっと、待ってて…」

がちゃんとヘッドホンを先輩に装着し、音を流す。
今度は先輩も大人しく曲を聴いている。

折角の爽やかで幸せな寝起きを襲うとは…許せねえ…
きりきりと痛む腹をさする。
何とか治めて戻ると、先輩がまた心配そうにこちらをみた。

「ご飯、お粥にする?食べたら病院いこ?」
「ん…」

熱が下がっても、腹はまだ本調子じゃないらしい。
俺はゆっくりとお粥を咀嚼し、胃に収める。
先輩は、そんな俺を眺めながら、ほうじ茶も淹れてくれた。
ふわりと湯気がたつ。

「あったかくして、行こう。コートも厚いやつ着て」
「ん、先輩も風邪引くから、それ、着替えなよ」

途端に、顔がぱっと紅く染まる。
まさか、自分がパジャマにトランクス姿ってこと、忘れてたとか?
それとも、自分のことがどうでもよくなるくらい、俺のこと心配してくれてた?

先輩は、自分の着替えをつかむと、覗かないでね!と俺に釘を刺して、風呂場の方へ行ってしまった。


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