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忘れられる、キスを
第10章 マフラー
翌朝、目が覚めると身体も軽く、気分も数日前とは比べ物にならないほどすっきりとしていた。
薬が効いているのか、腹の調子にもそれほど不安はない。

昨日のことを思い出し、またシーツやら何やらを全て剥ぎ取り洗濯機に放り込む。

身体の調子が戻ったことをえっちゃん先輩に連絡しなくては…と思ったが、理性がきかなかったことに加え、またしても夢想の餌食にしてしまった後ろめたさが、俺の指を躊躇させる。

忘れていったマフラーを渡すことを建前にすれば、合うことだって叶うだろうが、そこで繋がりが切れてしまいそうで怖かった。
あのマフラーをもう少しだけ手元に置きたい、という邪な思いもあった。
何に使わずとも、それがあるだけで、先輩と繋がっていられるような気がしていた。

逆にいえば、マフラーさえあれば、いつでも、会いたい時に会えるのだ。
あんなことをして、昨日の今日だ。
先輩も気持ちが落ち着いていないかもしれない。
焦って連絡をすることもないだろう。

もしかしたら、先輩から連絡が来るかも……

わずかな期待を込めて携帯を眺める日が続いたが、それから二週間経っても全く音沙汰なく、俺は考えの甘さを思い知らされるのだった。


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