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忘れられる、キスを
第10章 マフラー
四月も半ばを過ぎ、就活も佳境を迎えていた。
この日も朝から三件の面接を終え、時計を見れば五時を過ぎていた。
ソメイヨシノはそろそろ散りかけていたが、春というには肌寒い日が続いていた。

高層ビルの建ち並ぶオフィス街を抜けて家路につく。
ぐううと空腹を訴える腹をさすり、どこか適当に夕飯でも…と思っていると、後ろから声をかけられた。

「おーい、リュウ?」
「……あ、弘樹」

声をかけてきたのは、同じサークルの同級生・須藤弘樹(すどう ひろき)だった。
俺はえっちゃん先輩と同じようにクラシックをメインに活動しているが、弘樹はエレクトーンやシンセサイザーを弾き、専ら他サークルのバンドの助っ人ばかりしている。
学部も、音楽の趣味も、サークル内での活動の方向性も違うが入会当初からなぜか馬が合い、なにかとつるむことも多かった。
就活は主に広告やマスコミ系を狙ってるときいていたが、こんなところで会うとは。

「今帰り?暇なら飲みにいこーよ」

明日明後日はこの時期にしては珍しく何の予定もない土日だ。
最近は大学にも授業のある数コマ以外はほとんど顔を出していなかったから、久々の誘いに俺は二つ返事で了承した。


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