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忘れられる、キスを
第11章 恋
先輩と会えることに、私は自分で思っているよりも浮かれていたらしい。
忙しい合間にも、髪を切ったり、服を見に行ったり、化粧を変えてみたり…と完全に恋に猛進する乙女だった。
同じ職場で働く人たちにも「あれ、最近なんか綺麗になったね?」なんて嬉しいことを言われる。

どんなに忙しくても、約束の日を思えば、何でも出来る気がした。
本当に、単純な生き物である。

早く来て欲しい、でも、ずっとこのまま、わくわくしたままでもいい…
そんな正反対の気持ちがぐるぐると渦巻き落ち着かない。
そして、長いようであっという間にその日は来てしまった。

仕事を終え、約束の時間より少しだけ早めに待ち合わせ場所につく。
早く会いたくて、でも緊張して、そわそわと落ち着かない。
待ち合わせ場所は、人通りが多く、先輩が近づいて来ても簡単には見つけられそうにない。

先輩、まだかな…

連絡が来ているかも…と手元の携帯に目を落とした時。

「深町さん」

優しい、大好きな人の声。

「こ、こんばんは…」

突然声をかけられたのでどぎまぎして、声が小さくなる。

「待たせちゃった?」
「い、いえ…」
「よかった。じゃあ、行こうか」

自然な動きで私をエスコートしてくれる。

ただ隣にいるだけで幸せなんです。
先輩、もう少し隣にいたいと思うのは、我儘ですか?



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