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忘れられる、キスを
第12章 真夜中
「ほ、星く…やだ…離して…」

震える声で先輩が言う。
俺はますます強く先輩を抱きしめた。

「泣くの、我慢しないでよ。泣いていいんだよ。悲しいって。辛いって。いっぱい泣いていいんだよ」

先輩は身じろぎしないで、俺に身を任せている。

「倉田先輩にフラれて、悲しいんでしょ。泣けばいいじゃん。泣いて、泣いて、忘れればいいじゃん」
「……っく…だ、って…ほし、くん…なくな…って……」
「一人で、泣くな、って言ったの」

辛い時には、俺を頼ってよ。

そう思って、頭を撫でる。
低い嗚咽が聞こえ、だんだんと大きくなる。

「……っく…ふ…っう…」
「声だして、泣いていいよ。その方がスッキリするから」

先輩を抱きしめたまま、その場にしゃがみ込む。
ベッドを背もたれに座り、膝の間に先輩を入れた。

背中をゆっくりさすると、堰を切ったように先輩の目から涙が溢れ、俺の胸に頭を預け、わんわんと小さな子どものように、泣き続けた。
俺はただ、その震える肩を抱きしめ、しゃくりあげる背中を撫でていた。

その時間は永遠のようでもあり、一瞬のようでもあった。
気付けば、嗚咽もおさまり、いつの間にか先輩は俺の腕の中ですうすうと小さな寝息を立てていた。
さっきとは打って変わって穏やかな寝顔には、いく筋もの涙の跡がついていた。

泣き疲れて寝るなんて、ガキだな…

そうは思っても、それすらも愛おしい。
その泣き顔に口付けすると、もう一度先輩を抱きしめ、ベッドの上の毛布を取って、包まり、俺も目を閉じた。


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