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恋花火
第34章 真冬の蜃気楼
部活の時間になり


ゆっくりと椅子から重い腰をあげる


……これは、連日の試合で疲れているだけ。


ただ、それだけなんだ。






「松下さん♪」


正面玄関で声をかけてきたのは二川原さん。


その首には、見覚えのあるマフラー。


「あぁ、これ?」


私の視線に気付いた二川原さんが、ニコッと微笑む。


「これね、タケル君がくれたんだー」


そのマフラーは、去年のクリスマス


タケルが寒い寒いって騒ぐから、一緒に買いに行った物だった。


私たちは昔から、何かとお揃いが多かった。


流行りの何々モデルのスニーカーや、奮発して買ったサングラスも


真似するなって言いながら


いつも二人で同じ物を買っていた。


マフラーも、そのうちのひとつだった。


「今日からはこのマフラー、私と松下さんのお揃いになるね。」


そう言って


二川原さんは私のマフラーに触れた。


「あっ!危うく本題忘れるとこだった!」


クルクルと変わる表情は、一年女子人気ナンバーワンだということを、改めて認めさせてくれる。


「あのね、昨日のこと……誰かに言ったりした?」


急に声を潜め耳元で囁かれた。


「昨日……」

「ふふ。私たちがエッチしてたってこと!」


……やっぱり、してたんだ……。


「……言ってないよ。」


そう答えると、二川原さんは安心したように微笑んだ。


「だよね。松下さんはそういうの、軽々しく言わないだろうなって思ってた。」


言わなかったのか


言えなかったのか


そこは自分でもわからないけれど。


「タケル君とも話してたんだけどね、私たちの関係は秘密にしておこうって決めたんだ。」

「…え?」

「私たちが付き合うことで、悲しむ人がいると思うから。」


二川原さんは、呆気にとられている私を気にすることもなく話を続けた。


「……松下さんだから言うけど、私結構モテるの。だから、タケル君が嫌がらせされるとダメだから……」


……なるほど。


「タケル君優しいから。そんな人たちのせいで傷ついて欲しくないの。」


……傷つくのかな?


むしろ、嫌がらせしてきた人たちをめちゃくちゃにしちゃいそうな気がしなくもない。


というのは黙っておこう。
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