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恋花火
第37章 トラブルメーカー
タケルは、試合に出たいと言った。


「……ダメ。」

「え?」

「タケルはもう棄権すべきだよ。」


この脚じゃ、もう無理だ。


私はそう思った。


「……松下さん。タケル君がどれだけこの大会のために練習してきたのかわかってるの?」


わかるよ



きっと私の知らないところで、タケルはたくさん練習してきたはずだ。


二川原さんは、そんなタケルの事を私なんかよりももっと知ってるのかもしれない。


だけど


だからこそ


「試合はもう出られないよ。」

「はぁ?」

「無理して出たって、みんなに迷惑がかかるだけだよ。それにたくさん練習したのはタケルだけじゃないはず。みんなの願いは勝つ事___それ一択だよ。」

「……随分と冷静なんだね。」


私の事を、薄情だとでも言いたいのだろう。


そう言いたいのなら言えばいい。


本当にその通りだから。


私は薄情者。


タケルの気持ちよりも


勝利を願っているのだから。






「……うん。試合には出ない。」


沈黙を破ったのは、タケルだった。


「タケル君、いいの?」

「いい。」


タケルはベンチからヨロヨロと立ち上がり、「レン、わりーな。陸先輩、あとはよろしくです。」そう言って頭を下げた。


「おまえだけにいいカッコさせねーし。」


陸先輩は、タケルの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「菜月ちゃん、タケルのこと病院連れてってくれる?出来るなら今すぐに。」

「はい!了解です!」


そして再びピッチに向かうみんなの背中に祈った。


どうか、勝って__


きっとみんな、願いはただひとつ。
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