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恋花火
第43章 春の海、冬の海
潮風が凍てつくように冷たい


頬も、耳も、鼻も



最後の会話から、どれくらい経った頃だろう


タケルがふいに口を開いた。


「……父さんから、電話がきた。」

「タケルのお父さん?」

「うん。」

「え……なんて言われたの?」


タケルのお父さんとは、家を出て行ってからはずっと音信不通だったはずだ。


なぜいきなりこのタイミングで?


「母さんから連絡がいったらしい。」


タケルは海を見据えたまま、言葉を続けた。


「俺とどう接すればいいのかわからないって……SOS出したんだろうな。だから父さんに呼ばれた。こっちに来ないか?ってね。」

「もしかしてお父さん、東京にいるの?だからタケルは……」

「違う。」

「ち、違うの?」

「父さんはもっと北にいるらしい。」

「じゃあ……なんでタケルは東京なの?お父さんに呼ばれたのに……」


そこでタケルと初めて目が合った。


その瞳は、私に強引にキスした時と同じ


冷たくて、なにも感情がないような


けれどどこか強さを持つ、不思議な瞳。


「父さんも母さんもいない所に行きたい。母さんも、俺のこと邪魔になったんだろ。だったらお望み通り出てってやろうじゃんってね。」


東京だったら、たくさん会社もあるし、人もいるし。


こんな俺でも雇ってくれる会社があるんじゃないかと


タケルは言った。


「……菜月はお父さんとお母さんに会いたいよな。」

「タケル……」

「俺はあいつらなんかいらない。……俺って贅沢なのかな……」


私は気付けば、タケルを抱きしめていた。


陸先輩の顔が頭に浮かんだけれど


止められなかった。


「……なにしてんの、おまえ。」


タケルは無抵抗だったけど、口では反抗してきた。


「こんなことしていいのかよ」

「……わかんない」

「隙ありすぎ。またキスされてもいいわけ?」

「……ダメ。」


タケルは私に、キスしなかった。


だけど腕の中で


子どもみたいに泣いた。


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