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恋花火
第52章 the one
「おーい」


2月も残すところあとわずか


学校からの帰り道に、そう声をかけられた。


……なんか、嫌な予感。


前にも一度あったシチュエーション。


顔を見なくたってわかる。


「俺だってば」


俺さんだから無視したいんですけど!


「おりゃ」

「んぎゃー!!!」


俺さん……郁さんに、おっぱい触られた……泣


「もうしんっじらんない!さいてー!」

「いいじゃん。」

「良くない!セクハラ変態エロオヤジ!」

「ひでー」

「お嫁に行けない 涙」

「陸に散々揉まれといて何言ってんだか」

「一緒にするなぁー!」


ぎゃーぎゃー盛り上がってたら、急に郁さんが静かに黙り込んだ。


「またその手法!?もうその手には乗らないんだから!」


鼻息も荒く言い放つと、背中に感じた殺気。


恐る恐る振り返ると……


鬼の形相の陸先輩が、そこにいた。








「終わった、俺、終了。」


陸先輩はプッツンして、郁さんに絶交宣言して立ち去った。


「勝手に終わらせないでよ!!」


私の怒りもおさまらない。


「もう。陸先輩怒るの当たり前ですよ?なんでいつも煽るようなことを…」

「わざとだよ。」

「はい?」

「こうやって怒らせておけば、あいつの気も紛れるかなって……」

「紛れるって……?」

「おまえのことだよ。……すげぇ好きだったからね。」


それを言われて、私は何も言えなくなってしまった。


「陸からよく相談つーの?されてたんだ。すげぇミラクルが起きた、って。あの子がサッカー部に入ってきたって。」


郁さんはきっと、私の知らない陸先輩をたくさん知っている。


「……荒療治ですね、郁さん。」

「優しく慰めたりとか無理だし。」


郁さんは、陸先輩のことをやっぱり大好きなんだね。


……よかった。


「俺、ちょっとわかったかも。」

「なにがですか?」

「陸がハマる理由。」

「え……」

「誰かを想って、カッコ悪くてもなりふり構わずってやつ?惚れるわ。」

「難しいです。もっとわかりやすく……いたっ」


郁さんはちっとも痛くないデコピンをしてきた。


優しいんだか、怖いんだか


全くわかんない。


だけど柔らかいデコピンは、陸先輩とよく似てる。
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