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恋花火
第53章 Destiny
「まさか自分の夢忘れてたとは……思ってたけど」


ブツブツ言うタケルの隣で、小学校の卒業アルバムを捲る。


私の隣には、当たり前のようにタケルがいる。


何気ない写真のひとつひとつ、その、ほとんどに。


「……あ、これ。」

「ん?」

「私がリレーで転んだ時のやつだ。」


さっき思い出していた運動会の写真。


私の膝には大きな擦り傷があって、その隣でタケルがピースしてる。


「ねぇ、この時の運動会覚えてる?」

「うん。」

「ほんとにー?適当言ってるでしょ。」

「覚えてるよ。菜月がビリで来た時のやつ。」

「当たりです。」

「忘れるわけねぇ。俺その運動会の日に、菜月のこと好きになったし。」


今、どさくさに紛れてすごい事言われた。


「この時の運動会は、俺の親が離婚してから初めての運動会だったんだ。」


タケルのご両親は、それまでは毎年必ず二人で運動会に来ていた。


タケルのお母さんは美味しそうなお弁当をたくさん作ってくれていて、それは毎年恒例の光景だった。


「離婚してから母さん仕事詰めでさ。運動会なんか来れる状態じゃなかったんだよ。わかってるけど、すげえ悲しくて。」


悲しくて寂しくて


運動会の朝目が覚めて、心が押し潰されそうだったとタケルは教えてくれた。


「嫌々運動会に出たんだ。昼の休憩どうしようって、そればっか考えてた。で、昼になって、俺は当然一人なんだよ。周りは家族でワイワイしてんのに。」


それが嫌で嫌でたまらなかったと、タケルは言った。


「朝自分でラップに適当に包んだ白飯片手にさ、泣きそうになりながらそれ食ってた。……そうしたら、隣に来たんだよ、菜月が。」

「……うん。」

「一緒に食べようって、たくさんの唐揚げ持って……」


思い出したよ。


私はあの日の運動会


朝早く起きてお弁当を作った。


まだ小学生だし、上手になんか作れなくて。


グチャグチャの卵焼きと、焦げた唐揚げ。


茹で過ぎたウインナーにブロッコリー。


私はタケルと食べたくて、作ったんだ。
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