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やさしいんだね
第3章 教師はなにも
 教師なんて嫌いだ。
 小百合は、14歳らしい正直な気持ちを抱えつつ、テキストの上にシャーペンを滑らせる。
  
 しかし脳裏からは絶対に自分と視線を合わせない八田の陰気な瞳が焼き着いて離れなかった。
 そしてその瞳はいつしか、小学5年の時に担任だった男の、陰気でねばっこく身体に張り付くような眼差しの記憶へと変わっていた。





 あの日、妊婦のような毛むくじゃらの腹が、何度も小百合の白い腹の上に重なった。
 あいつの身体は重くて苦しくてたまらなかった。
 
「ま、まつうら・・・ア、アフフ、まつうら、やっと俺はまつうらを手に入れることができたよ・・・」

 指紋でべたべたに汚れたメガネのレンズの向こうで、血走った陰気な瞳で、あいつは小百合の精神すらも犯した。

 捩じ込まれた股間からあいつの汚い男性器が見えた。
 それは真っ白い小百合の身体から流れ出た真っ赤な血で汚れていた。
 あいつが動くたびに机や椅子がガタガタと音を立て、整列を乱していた。

「かわいいよ・・・まつうら、かわいくてたまらないよ、夢みたいだ、俺がまつうらを・・・フ、フフフ」

 セミの泣き声と、あいつの乱れた薄毛頭。
 団子鼻の頭で雫となり今にも滴り落ちそうな汗の玉。
 ブルドッグのようなたるんだ頬。
 そして。

「まつうら、せんせいの・・・フフ、はは、せんせいの子供、孕んでくれるか?そうしたら、せんせい・・・あフフ、まつうらを・・・」

 胎内に響く脈動の記憶はあいつから神谷の姿に代わり、最終的に逞しい背中を黒板の前に翻す八田の姿に変わった。
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