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やさしいんだね
第4章 ロストバージン
「いいの、お兄さんにもらって欲しいの」


 小百合はたぶん、そんなことを言ったと思う。
 たぶん、というのは、小百合が言い終わるより先に松浦の先端が強烈な痛みと共に小百合の中にめり込んできたためだ。

 あまりの痛みに小百合は意思とは関係なく声を上げた。
 意思とは関係なく上体を捻らせ、強く枕を握り締める。
 全身から汗が吹き出る。
 奥歯をきつくかみ締め、痛みに耐える姿勢をつくった。


「痛い?ごめんね、痛いよね」


 松浦の優しい声が頭上から聴こえるが、痛みは増す一方だった。
 潤滑剤は十分すぎるほど足りているはずなのに、切り裂かれるような痛みが小百合の排泄器官から全身に脈動する。
 小百合の脳裏に、ソンがいつも眺めているモニターの中の千夏の笑顔が蘇った。
 千夏もソンのものを初めて受け入れたとき、こんなふうに悶え苦しんだのだろうか?
 

「ごめんね、ごめん・・・でも・・・」


 松浦の声が遠くに聴こえる。
 目を開けることが出来ない。

 痛い、痛い、痛い。

 自分の声が脈動と共に血管を駆け巡っている。
 けれども。


「小百合ちゃんの初めてをもらえるなんて、嬉しくってたまらないよ」


 そんな声が聴こえたとき、小百合の全身は一瞬だけ、痛みを忘れた。
 松浦に麻酔をかけられたかのように。


 ゆっくり目を開けると、真剣な顔で自分を見下ろす松浦の顔が天井といっしょに視界に入ってきた。
 松浦の目は、小百合の目と同じように、赤く充血して潤んでいた。


「それも、誕生日にさ。こんな最高の誕生日は生まれて初めてだよ」

 
 小百合は動きを止めようとしない松浦を見上げながら、次の言葉を待っていた。
 松浦の前ではもう二度と商品に戻れないかも知れない、という予感を抱きながら。


「小百合ちゃんはさ」


 耳の中に響く松浦の言葉と共に、痛みが再び小百合の全身を支配しはじめる。
 それは小百合の心を松浦が支配し始めているのと比例して、強く、脈打つように。


「優しい子だからさ。だから、俺に優しいことを言ってくれてるんだって、それくらい分かってるよ。仕事をしてるだけなんだって、分かってるんだ。でも俺、初めて小百合ちゃんに会ったときから、小百合ちゃんのことばっかり考えてしまってるんだ。バカみたいだろ?」


 
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