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やさしいんだね
第4章 ロストバージン
 松浦の額にも汗が浮かんでいる。

 日に焼けた肌、引き締まった体躯、綺麗に刈り込まれた頭髪。

 普段、どこでどんな顔で、どんな表情を浮かべて、どんな服に身を包んで、自分を買うためのお金を稼いでいるのか、それすら知らない。いいや。
 セックス以外のことは何も知ってはいけないはずの愛しい男の腕の中で、小百合は堰を切って溢れだした甘い期待と強烈な痛みに浸りながら次の言葉を待っていた。


「先月別れ際に言ってくれたろ?“ずっと一緒にいたい”って。誰にでも言ってるって分かってるんだ。でも俺、本当に嬉しかった。嘘でも嬉しかった・・・」


 じきに松浦は動きを止めた。
 それは、かつて小百合の担任教師だった男が挿入に成功したときと同じような動きであったことに、小百合は気付きたくなかったけれど、気付いてしまった。
 なぜなら、強烈な痛みがあの時と同じ種類のものであることを、身体のほうが覚えていたからだ。


「気持ち悪い客だってあとから笑ってくれていいよ。それでも俺、小百合ちゃんのことが好きなんだ」


 でも、あの時とは違う。
 小百合は動きが止まっても引くことのない痛みに顔を歪めながら、松浦が「・・・全部入ったよ」と囁き、自分の唇に優しくキスをしてくれるあいだ、ずっと考えていた。


「・・・わたし」


 松浦が唇を離してすぐ、小百合は枕を握り締めていた両手を離し、松浦の背中に腕を回した。
 松浦の背中は汗でぐっしょり濡れ、冷たくなっていた。
 暖めるように何度も腕をすべらせ、松浦の首筋や頬にキスをする。




「ほんとはね・・・シズク、って、いうの」



 あの時とは違う。
 絶対に、違う。
 自分自身に言い聞かせるように小百合は、松浦に告げた。

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