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やさしいんだね
第4章 ロストバージン
「シズクちゃんの医者になりたいって夢、応援したいと思うよ。でも考えたんだ。君の夢はこんなにも苦しい仕事をして学費を貯めて医大に行かなくたって、叶う方法があるんじゃないかって」


 例えば。
 佐治は言いながら、胸ポケットからラークの赤箱をライターと共に取り出す。
 

「こんなのはどうだろう。経済的に余裕のある男と出会って、不遇な人生ごともらってもらう。とかさ」


 1本引き抜き、唇に挟んで火をつけた。
 中身のぎっしり詰まった箱が再び胸ポケットに消える。


「あくまでも例えばの話だけど。もしかしたらその“経済的に余裕のある男”の職業は医者かも知れない。こまい町医者だけど、でも、君をこうして月に一回抱けるくらいの余裕は常にあるかも知れない。君がなにか高い志を持って医者を目指しているわけでなく、ただ単純に世間を見返したいというステータスを理由に医者を目指しているのなら・・・医者の妻として生きるというのも、同等に近いステータスを得られるんじゃないかな?すると、これで中学生の君が学費のために無理してまで働いて医者を目指す必要はなくなることになる」


 薄暗いビジネスホテルの一室に、佐治の肺から排出される有害な煙と、小百合の鼓動が不穏に広がった。


「あくまでも例えばの話だからね・・・?もしかしたらその男は、今すぐにでも君をさらって自分のものにしてしまいたいと考えているくらい、君に惚れてるかも知れない。こんな過酷な仕事なんて今すぐ辞めさせて、学業だけに専念出来る環境で高校はもちろんのこと大学まで卒業させてやってもいいと考えてるかも知れない。もちろん、君のお母さんの人生のことも君が心配する必要がないよう何らかの方法を措置したいと考えているはずだよ。ただひとつ、君がその男の妻になりたいと心から希望してくれるなら・・・という、あくまでも例えばの話だけどね」


 小百合は時計を確認することが出来なかった。
 長い間、ドライヤーのスイッチを再びONにすることも忘れ、佐治の横顔を見上げ続けていた。

 けれどじきに佐治はお決まりの調子でふふっと笑い、小百合をベッドに残して静かに立ち上がった。
 


「さぁ、時間だよ。髪はあの男に言って、どこか別の場所で乾かしたらいい」



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