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やさしいんだね
第4章 ロストバージン
車が再び動き出す。
小百合は冷たい髪を枕にして目線だけを動かし、バックミラーに写るソンの無表情を見つめた。
「いろいろって?」
ソンはどこに車を走らせているんだろう。
考えながら質問すると、ソンは行きの車内で見せた上機嫌が嘘のように忌々しく鼻を鳴らし、ぶっきらぼうに小百合に答えた。
「こないだの、ほら。お前が塾のテストで行けねぇつった日、かわりに行かせろって言ってたメガネのブスだよ。あいつが面倒なことしやがってさ」
「面倒なことって?」
「クビだっつったら、事務所で首切りやがった」
小百合は揺れる薄闇の中、ラウンド型に整えた指の爪先を見ながら大げさに笑った。
「なにそれ?ダジャレ?」
けれどもバックミラーに写るソンの表情は小百合のバカ笑いを受け、険しくなる一方だった。
「ちげぇよ。シャレじゃなくてマジだよ。カッターで首の太い血管とこ切ってブッ倒れてたって。昼間事務所任せてる土井のやろうが言うにはいっぺん帰ったあとまた来て、金がどうしてもいるから働かせてくださいってしつこかったんだと。俺が来るまで部屋で待たせてて、1人になったスキに」
ソンの指が首の下を真一文字に切る素振りをして見せる。
小百合の笑い声がブツッと途切れる。
乱れた髪を顔に貼り付けたまま小百合はゆっくり起き上がり、ソンに「ごめん」と冷たい声で詫びた。
「あーあ、めんどうなことしやがるぜ、まったく」
小百合の脳裏に、たった一度だけ顔を合わせたたけの、言葉を交わしたこともない陰気な少女の姿が浮かんで消えた。
「その子・・・助かったの?」
回答を得ずとも同じことなのに、小百合は尋ねずにはいられなかった。
景色は見慣れた国道を走り抜けて行く。
夕方に見た、同じ中学の女子生徒と母親が仲睦まじく肩を並べて消えていったスターバックスコーヒーの看板が夜空に緑色に反射していた。
「あぁ、俺が行くまでは息してたな」
ワンボックスは駅前を通過。
交差点に進入、左折。
そのタイミングで小百合は「ここでいい」とソンに告げた。
昼休みに食べまだわずかに胃の中に残っていた給食を、吐き戻しそうになったからだ。
小百合は冷たい髪を枕にして目線だけを動かし、バックミラーに写るソンの無表情を見つめた。
「いろいろって?」
ソンはどこに車を走らせているんだろう。
考えながら質問すると、ソンは行きの車内で見せた上機嫌が嘘のように忌々しく鼻を鳴らし、ぶっきらぼうに小百合に答えた。
「こないだの、ほら。お前が塾のテストで行けねぇつった日、かわりに行かせろって言ってたメガネのブスだよ。あいつが面倒なことしやがってさ」
「面倒なことって?」
「クビだっつったら、事務所で首切りやがった」
小百合は揺れる薄闇の中、ラウンド型に整えた指の爪先を見ながら大げさに笑った。
「なにそれ?ダジャレ?」
けれどもバックミラーに写るソンの表情は小百合のバカ笑いを受け、険しくなる一方だった。
「ちげぇよ。シャレじゃなくてマジだよ。カッターで首の太い血管とこ切ってブッ倒れてたって。昼間事務所任せてる土井のやろうが言うにはいっぺん帰ったあとまた来て、金がどうしてもいるから働かせてくださいってしつこかったんだと。俺が来るまで部屋で待たせてて、1人になったスキに」
ソンの指が首の下を真一文字に切る素振りをして見せる。
小百合の笑い声がブツッと途切れる。
乱れた髪を顔に貼り付けたまま小百合はゆっくり起き上がり、ソンに「ごめん」と冷たい声で詫びた。
「あーあ、めんどうなことしやがるぜ、まったく」
小百合の脳裏に、たった一度だけ顔を合わせたたけの、言葉を交わしたこともない陰気な少女の姿が浮かんで消えた。
「その子・・・助かったの?」
回答を得ずとも同じことなのに、小百合は尋ねずにはいられなかった。
景色は見慣れた国道を走り抜けて行く。
夕方に見た、同じ中学の女子生徒と母親が仲睦まじく肩を並べて消えていったスターバックスコーヒーの看板が夜空に緑色に反射していた。
「あぁ、俺が行くまでは息してたな」
ワンボックスは駅前を通過。
交差点に進入、左折。
そのタイミングで小百合は「ここでいい」とソンに告げた。
昼休みに食べまだわずかに胃の中に残っていた給食を、吐き戻しそうになったからだ。