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やさしいんだね
第4章 ロストバージン
路肩に停車したワンボックスからドアをスライドさせ降りようとする小百合に、ソンは運転席から腕を伸ばした。
「待てよ」
小百合が振り向くと、ソンが差し出した指先には500円玉が挟んであった。
「ほら、電車賃。足はさっきのコーヒー代で相殺してくれや」
金に汚いソンの小さな気遣いを小百合は訝しく思い、首を左右に振った。
けれどもソンは無理矢理小百合の手首を捉え強引に硬貨を握らせると、珍しく作り笑顔でない彼自身の微笑みを顔全体に浮かべながら小百合に告げた。
「あ、そうだ。“シズク”」
手首が解放されたとき、小百合の脳裏に学生鞄の中に仕舞ってあるスケジュール帖の存在が過ぎった。
「今日は疲れたろ?俺もさすがに疲れたわ。だから明日はお互い完全オフってことでさ。気分転換がてら、どっか遊びに連れてってやるよ」
ハートマークで埋め尽くされた26日の右隣。
27日の欄にオレンジ色のペンで書き込んだ予定。
もう何ヶ月も前に書き込んだ、果たされることのない、約束。
“千夏♡誕生日♡シー♡デート”
汚い硬貨を見つめる小百合の背筋に鳥肌が立ったのは、濡れた毛先のせいではなかった。
「お前“ら”が好きだった、あのネズミの遊園地でもいいぜ。明日はぜーんぶ俺のオゴリってことでさ。へへへ・・・だからよぉ、シズク」
小百合は微笑みの中に浮かぶぎらついたソンの瞳を見つめ返すことが出来なかった。
「“変なこと”考えんじゃねぇぞ」
代わり静かに首を縦に落とし、ドアを完全に締め切った。
「待てよ」
小百合が振り向くと、ソンが差し出した指先には500円玉が挟んであった。
「ほら、電車賃。足はさっきのコーヒー代で相殺してくれや」
金に汚いソンの小さな気遣いを小百合は訝しく思い、首を左右に振った。
けれどもソンは無理矢理小百合の手首を捉え強引に硬貨を握らせると、珍しく作り笑顔でない彼自身の微笑みを顔全体に浮かべながら小百合に告げた。
「あ、そうだ。“シズク”」
手首が解放されたとき、小百合の脳裏に学生鞄の中に仕舞ってあるスケジュール帖の存在が過ぎった。
「今日は疲れたろ?俺もさすがに疲れたわ。だから明日はお互い完全オフってことでさ。気分転換がてら、どっか遊びに連れてってやるよ」
ハートマークで埋め尽くされた26日の右隣。
27日の欄にオレンジ色のペンで書き込んだ予定。
もう何ヶ月も前に書き込んだ、果たされることのない、約束。
“千夏♡誕生日♡シー♡デート”
汚い硬貨を見つめる小百合の背筋に鳥肌が立ったのは、濡れた毛先のせいではなかった。
「お前“ら”が好きだった、あのネズミの遊園地でもいいぜ。明日はぜーんぶ俺のオゴリってことでさ。へへへ・・・だからよぉ、シズク」
小百合は微笑みの中に浮かぶぎらついたソンの瞳を見つめ返すことが出来なかった。
「“変なこと”考えんじゃねぇぞ」
代わり静かに首を縦に落とし、ドアを完全に締め切った。