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やさしいんだね
第5章 鮮血と赤箱
 小百合は八田に対し何も返答しないまま、ポパイ柄のTシャツを身に付けた逞しい八田の背中に続いて駐車場からエントランスを通り抜け、エレベーターに乗り込んだ。
 LED電光の白々した明かりが八田のあくびを鮮明に照らしている。
 八田は眠気と疲れを隠す素振りもなく顔を手のひらでこすりながら8階のボタンを押した。


「そういえば」


 八田が再び口を開いたのは、量産型ザクの小さいキーホルダーがぶら下がった鍵を鍵穴に差込み、玄関ドアを開けた時だった。
 鉄扉が開く。
 風圧と共に狭い玄関から生活臭が漂い出し、小百合の鼻をかすめた。


「腹、減ってないか?」


 八田はしきりにあくびをしながら、狭くて短い廊下を奥へ奥へ進んでいく。
 パチンと音を立てて電気が点き、キッチンと陸続きになっているリビングの光景が小百合の目の前に広がった。

 パンや新聞や水筒が積み重なったカウンターキッチン、マグカップが2,3個放置されたままの食卓テーブル、組み立て式のベビーチェアが二脚。
 奥の窓際には小さめの液晶テレビが小さめのテレビボードの上に設置されており、部屋の真ん中には滑り台と鉄棒とジャングルジムが一体型となった幼児向け玩具がドンと置かれていた。

 部屋じゅうをゆっくり目線だけで見回していた小百合が八田を振り返ると、八田は後頭部を掻きながらやや腰を屈め気味に冷蔵庫の中を物色していた。

 小百合は首を振り、

「すいてません」

 と小声で答えた。
 その時すでに八田は冷蔵庫からバナナを取り出し、皮をむいて半分ほど頬ぼったあとだった。
 八田は頷きながら咀嚼し、バナナを胃の中にすべて収めてしまったあとで幼児向け玩具のそばを通り過ぎ、リビングの窓の斜向かいに存在する襖戸を勢いよく開いた。


「じゃあ、もう寝なさい。申し訳ないけどうちは客布団がないから、君は奥さんが普段つかっている布団で寝てくれるだろうか。俺はこっちで寝るから」


 言いながら八田は敷きっぱなしだったと思われる自身の布団をキッチンの床まで引きずってきたあとで再び和室へ足を戻し、押入れから揃えのダークブラウン色のシーツが掛かった布団一式を取り出し、衣装ケースが積み重なって狭くなった畳の上に敷いた。


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