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やさしいんだね
第5章 鮮血と赤箱
 小百合はその様子をキッチンから呆然と眺めていた。
 食卓の上には新聞とチラシが乱雑に積み上がり、その傍らに置かれた灰皿の中には吸殻が積み重なっていた。

「あの」

 小百合の脳裏に佐治の顔が浮かんだのは、八田が再び赤箱を手にしたせいだった。
 和室から戻り食卓を挟んで向かいに立った八田は目を合わせないまま、小百合のほうをじっと見下ろしている。
 小百合が自分に何か意思を伝えようとしている、と理解したためだ。

「私がこういう仕事してるっていうの、先生知っちゃったじゃないですか」

 蛍光灯の下で小百合は自然乾燥した毛先を落ち着きなくいじりながら、八田と同じように決して八田と目を合わせようとはしないまま、たまたま遭遇した八田のお陰で救急で手当してもらえたという事実をじゅうぶんに理解したうえで、八田に尋ねた。

「そうなると・・・これってやっぱり、進路に影響しますか・・・?」

 心臓が痛い。
 服と下着を着替えたい。
 お風呂に入って、髪をトリートメントしたい。
 小百合は何も考えたくないから、何も考えないですむように、そんなことばかり考えた。

 八田は黙っていたが、じきに、

「ごめん。奥さんから電話だから、またあとで」

 と言った。
 小百合が顔を上げると、八田はハーフパンツのポケットから取り出した二つ折りのケータイを焦った表情で耳にあて、「リョウちゃんごめん、今ついた」と、小百合の知らないイチ家庭人としての声で電話口の向こうの妻に述べながら急ぎ足でベランダへと消えて行った。

 
 小百合はしばらく綿埃やパンくずの転がるフローリングをすり足で歩いたりしたが、半開きのカーテンの向こう側に見える八田の逞しい背中が室内に戻る気配がなかなかないため、ついに疲労に負け、八田の指示通り和室に足を進め、八田の妻が普段使用しているらしい布団を踏みしめた。
 深夜のガラス窓の向こうから聴こえてくる八田の情けない声をBGMに、小百合は汚れた襞スカートを脱ぎ捨てた。
 血塗れの下着を気にしながら天竺綿のシーツの上に寝そべるとどどっと疲れが押し寄せ、自動的に瞼が落ちた。

 耳の中に八田の声が入ってくる。



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