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やさしいんだね
第6章 他人の快楽は夕刻の改札で
大丈夫。あの時とは違う。大好きな敦司さんとしたことだから、どうなっても、あの時と同じようにはならない。
小百合は現実逃避のように自分に言い聞かせ、トイレから出た。
キッチンへ戻ると、水の流れる音で目が覚めたのか、布団の上で八田が胡坐をかいてあくびをしているところだった。
「服、ありがとうございます」
小百合が背中に言うと、八田はのそりと立ち上がった。
「具合、どうだ?」
右手に煙草。左手にライター。
乾いた音。
のち、嗅ぎ慣れた臭い。
小百合は電源の切れたスマホと、たった1件暗記してしまった電話番号を紫煙の中に同時に浮かべていた。
「大丈夫、です」
「そうか。もうちょっと休んでなさい」
「いえ、先生も忙しいみたいだし。連絡して迎えに来てもらいます」
八田は振り向き、首を傾げた。
そしてやはり、小百合の目を見つめようとはしなかった。
「いつも、お母さんはこの時間には起きてるのか?」
食卓のうえのガラケーを手にとった八田に、小百合は首を横に振った。
「いえ、あの。お母さんはたぶん、来れないと思うから」
しつこいことに定評のある男から繰り返される着信のせいで暗記してしまった番号が、しつこく脳裏に浮かび続ける。
「お母さんのお兄さん・・・叔父さんなら」
その番号を口早に述べたあと、小百合は無意識に作り笑顔を浮かべていた。
「今くらいの時間なら仕事終わって家にいると思うから。もしかしたら、迎えに来てくれるかも知れません」
初めて他人に口にするソンと自分の関係から現実逃避するかのように。
小百合は現実逃避のように自分に言い聞かせ、トイレから出た。
キッチンへ戻ると、水の流れる音で目が覚めたのか、布団の上で八田が胡坐をかいてあくびをしているところだった。
「服、ありがとうございます」
小百合が背中に言うと、八田はのそりと立ち上がった。
「具合、どうだ?」
右手に煙草。左手にライター。
乾いた音。
のち、嗅ぎ慣れた臭い。
小百合は電源の切れたスマホと、たった1件暗記してしまった電話番号を紫煙の中に同時に浮かべていた。
「大丈夫、です」
「そうか。もうちょっと休んでなさい」
「いえ、先生も忙しいみたいだし。連絡して迎えに来てもらいます」
八田は振り向き、首を傾げた。
そしてやはり、小百合の目を見つめようとはしなかった。
「いつも、お母さんはこの時間には起きてるのか?」
食卓のうえのガラケーを手にとった八田に、小百合は首を横に振った。
「いえ、あの。お母さんはたぶん、来れないと思うから」
しつこいことに定評のある男から繰り返される着信のせいで暗記してしまった番号が、しつこく脳裏に浮かび続ける。
「お母さんのお兄さん・・・叔父さんなら」
その番号を口早に述べたあと、小百合は無意識に作り笑顔を浮かべていた。
「今くらいの時間なら仕事終わって家にいると思うから。もしかしたら、迎えに来てくれるかも知れません」
初めて他人に口にするソンと自分の関係から現実逃避するかのように。