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やさしいんだね
第6章 他人の快楽は夕刻の改札で
耳の中に風の音が雑音のように響いている。
14歳の胸中に存在する一言にまとまらない感情から現実逃避するために、小百合は最も手短な存在である、唯一彼女が“甘えることのできる”保護者であるソンに口を開いた。
「先生ね。奥さんに電話で愛してるって言ってた」
ラジオから雑音に似た流行曲が垂れ流されている。
小百合は勤務時間外であるにも関わらず「ラジオ消してよ」と強い口調で述べた。
けれどもステレオは女性歌手の歌声を垂れ流し続ける。
小百合は落ち着きを取り戻しつつある泣き顔をソンのほうへ向けた。
「あの先生、頭おかしいんだよ。私に昔自分が行った風俗の話をしてさ」
ソンは小百合のほうを見ようともしなかった。
「それなのに、奥さんに電話で愛してるって」
けれど、小百合は昨晩自分の髪を優しく撫でた八田の顔を瞼を開いて見る事が出来なかったのと同じように、分かっていたのに話をやめることが出来なかった。
「・・・あんたってさ。金に苦労したことのない人生だったらふつーに結婚してさ、ふつーに子供が欲しかったんでしょ?ママが言ってたもん」
ソンは無表情のままハンドルを操り、ただただ黙っていた。
14歳の胸中に存在する一言にまとまらない感情から現実逃避するために、小百合は最も手短な存在である、唯一彼女が“甘えることのできる”保護者であるソンに口を開いた。
「先生ね。奥さんに電話で愛してるって言ってた」
ラジオから雑音に似た流行曲が垂れ流されている。
小百合は勤務時間外であるにも関わらず「ラジオ消してよ」と強い口調で述べた。
けれどもステレオは女性歌手の歌声を垂れ流し続ける。
小百合は落ち着きを取り戻しつつある泣き顔をソンのほうへ向けた。
「あの先生、頭おかしいんだよ。私に昔自分が行った風俗の話をしてさ」
ソンは小百合のほうを見ようともしなかった。
「それなのに、奥さんに電話で愛してるって」
けれど、小百合は昨晩自分の髪を優しく撫でた八田の顔を瞼を開いて見る事が出来なかったのと同じように、分かっていたのに話をやめることが出来なかった。
「・・・あんたってさ。金に苦労したことのない人生だったらふつーに結婚してさ、ふつーに子供が欲しかったんでしょ?ママが言ってたもん」
ソンは無表情のままハンドルを操り、ただただ黙っていた。