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やさしいんだね
第6章 他人の快楽は夕刻の改札で
 ―――千夏は本当にいなくなってしまったのだろうか。

 小百合は埃かぶったフローリングを踏みしめながら、漠然とそんなことを考えた。

 特大サイズのシー限定テディベアがクローゼットの扉を塞いでいる。
 両腕で抱きかかえた拍子に小百合の鼻がむずつき、2回もくしゃみが出た。


「千夏ごめん。服、借りるね」

 
 鼻を擦りながら取っ手に手をかけ、ゆっくりと開く。
 自分にしか聞こえないくらいの小さな声で、小百合は千夏に詫びた。



 クローゼットの中は、中高生に人気のファッションブランドの洋服で埋め尽くされていた。
 夏物冬物、マフラー、小物、帽子、バッグ、靴、アクセサリー。
 隙間なくなにもかもいっしょくたに詰め込まれたソンの愛情表現が小百合の目の前に広がる。

 小百合は息を止めて値札タグがぶら下がったままの暖かそうな黒色のチュニックと、その近くにぶら下がっていた黒色のレギンスのハンガーを手に取り、すぐに扉を閉めた。

 静かに踵を返してドアに向かおうとして、小百合は足を止めた。
 横目で見つめる視線の先には、チェストがあった。
 躊躇しながら小百合が千夏のチェストへ歩を進めたとき、股の間に貼り付いている生理用品ががさりと擦れて音を立てた。




 ―――・・・ボクと小百合は一緒だからかな?




 千夏の言葉が耳の中に蘇った気がしたから、小百合は先ほどと同じようなセリフを述べながら一番上の引き出しを静かに開けた。

 ダウニーの香りと共にチェストの中に詰め込まれた、千夏の下着類。
 中に何が仕舞われているのか、小百合はずいぶん昔から知っていた。

 女性用のショーツがたくさん、男性用のボクサーパンツがちょっと。
 少女向けのブラジャーが1,2枚。
 それから、長かったり短かったりフリルがついてたりついていなかったりする多種多様なソックスが山のように。
 
 小百合は遠慮がちに1組、さきほどのコーディネートに適当なソックスを選んで引き抜くと先ほどのチュニックらと共に腕に抱え、急ぎ足で部屋の外へ出た。


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