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やさしいんだね
第6章 他人の快楽は夕刻の改札で
 小百合の視線を焼きつくほど横顔に浴びながら、ソンは肩を震わせた。


「へへへ・・・。にしても、おっかしいよなぁ。お前ってさ、見た目はお前のママとうりふたつなのに、中身はまるっきりお前のパパとおんなじなんだからさ」
「そんなに似てる?私とパパ」
「あぁ、そっくりだよ。お前を見てるだけで“あぁ、そういえば俺も人間だったんだよな”って思い出すくらいな」


 それだけ言うと、ソンはラジオが垂れ流していた流行曲に合わせて鼻歌をうたいはじめた。
 小百合も小百合で何か返答する気が起きず、ただただ窓の外を流れていく景色を見つめるだけだった。


 
 ―――そう言えば、あの時もソンはこんなことを言ったような気がする。
 


 小百合は助手席で目を擦りながら小さくあくびをした。
 窓の外の景色は橋の上を通過している。
 きらきら光る水面が反対車線を走る車の合間から見える。


 その眩しい光はじきに、夜道を走るソンのワンボックスの車内から見た、記憶の中の街灯の光へと変わっていた。


 ―――そんな顔すんなよ。お前のママは用事があってどうしても来れないっていうんだからさぁ・・・。


 
 あれは、3年前の記憶だ。
 考えながら小百合の瞼が落ちる。
 となりからソンの「おいおい、もうすぐ着くぞ」という声が聞こえた。
 けれどその声は記憶の中の声にすり替わり、小百合は目を開けることができなかった。



 ―――俺を睨み付けなくたっていいだろ?そこまで警戒しなくたって、ちっちゃいときなんべんか会ったじゃねぇか、ほら、アキラ叔父ちゃんだよ・・・。あぁ?しらねぇって・・・薄情なやつだなぁ!本当に覚えてねぇのか?お前のパパの代わりに幼稚園の運動会でビデオ撮ってやったこともあんだぞ?・・・そうだよ!そう!金貸しのアキラ叔父ちゃんだよ!へへへ、やぁっと思い出したか!

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