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やさしいんだね
第6章 他人の快楽は夕刻の改札で
 記憶の中の小百合は、今乗っているのと同じソンのワンボックスの後部座席で身体を縮こませながら、バックミラーに写るソンの顔を恐々と見つめていた。


 ―――会えばすぐ思い出してくれるかって期待してたらこのザマだよ。記憶力の悪さはパパ似だな。あーあ、だから頭のわりぃ貧乏人との結婚は反対だったんだ。・・・ま、先にデキちまったんだから今更ぼやいても仕方ねぇけど?



 窓の外は真っ暗だった。
 ソンは運転席の窓から腕を外へ出していて、時折その手を口元に当てて煙草を吸っていた。
 小百合はその様子を何十分も黙って見つめ続けていた。

 開け放たれた窓から吹き込む風は冷たくて、そして煙たかった。



 ―――・・・にしても、ご無沙汰してたうちにお前もすっかりママに似て美人になったなぁ。驚いたよ。叔父ちゃんとしては美人な妹に美人な姪っ子がいて幸せだけど・・・でもなぁ・・・。



 時折、助手席から顔を出して小百合を見つめ続けているヒカルの純粋そうな顔に目をやりながら。



 ―――美人なせいでこんなちっさいうちから変な男に狙われて嫌な目に遭わされるんじゃ、あんまりだよなぁ・・・最初にかかった医者が悪かったせいで・・・なんだ?堕ろしたときの傷が子宮にめちゃくちゃついてて?腹んなかに膿が溜まってたんだって?相当痛かったろ?よく我慢したよな。ママもいっぺんも見舞いに来ただけで、あとは1人で今日まで寂しく入院してたんだろ?あんまりだよなぁ・・・あんまりだ・・・。



 ヒカルの人形のような顔がたびたび自分とソンの横顔を行き来するのを、ただただ黙って見つめながら。



 ―――今までよく頑張ったよ、シズク。辛いのによーく今まで頑張った。涙が出るよ。叔父ちゃんなぁ、金貸しのほかにも色々やってっからちょーっと色々忙しいけど、お前のママが新しいパパと落ち着くまではうちで面倒みてやるから、だから安心しな。うちには叔父ちゃんだけじゃなくてコイツもいるから、寂しくねぇよ。な?コイツはお前と“おんなじ”だから、すぐ仲良くなれるって。なぁ、ヒカル?シズクと仲良くできるな?


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