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やさしいんだね
第6章 他人の快楽は夕刻の改札で
バックミラーに写るソンの目は笑っていなかった。
けれど当時はそんなことより、突然ヒカルが助手席をよじ登って自分のいる後部座席に転がり落ちてきたことのほうに意識が向いて、気付かなかった。
ヒカルは艶のある長い黒髪を乱しに乱し、驚いている小百合の足元で華奢な身体を転げ落ちた衝撃のせいで複雑なかたちに折り曲げたまま、へへへと恥ずかしそうに笑っていた。
―――ちょうどコイツにも友達がいるなあって思ってたとこだったんだ。犬が死んじまったからな。別にまた犬を飼ってもよかったんだけど、人間でも構わなかったからさ。金が浮いたよ。いや~、ちょうどいい友達がちょうどよく見つかってホントちょうどよかったぜ。お前ならコイツの友達にぴったりだからな。なんてったってお前もヒカルも“同じ”だからよぉ、へへへ・・・・。
ヒカルは人形のような儚げで美しい顔を無邪気に歪めて小百合の頭をぽんぽんと撫でるように叩いた。
―――ねぇ、シズクちゃん・・・覚えてるかな?ボクといっかい会ったことあるんだよ?・・・ボクは覚えてるけど、シズクちゃんはもう覚えてないかな・・・?
小百合はヒカルの少女らしい見た目と相反した少年らしい声を聞いて、目を丸くせずにはいられなかった。
その様子をソンはバックミラー越しに確認し、ハハハハと声を上げて笑っていた。
―――おいおいヒカル、無理言うなよ。あんときはお前、まだ髪がみじかくってさぁ、ズボン穿いてたんじゃねぇか。覚えてたってお前だって分かるわけねぇよ。あんときはまるっきり男の子だったんだから。なぁシズク?コイツに会ったことなんて覚えてねぇよな?コイツな、お前のパパの後輩の子供だったんだよ。お前んちでいっぺん会ったことあるだろ?俺がキレて殴ったせいで鼻血出してたあのオッサンの・・・。ほら見ろ、覚えてねぇってさ。残念だったなヒカル!ハハハハ・・・・。
ぜんぜん笑っていない冷たい瞳で、楽しそうに笑っていた。
けれど当時はそんなことより、突然ヒカルが助手席をよじ登って自分のいる後部座席に転がり落ちてきたことのほうに意識が向いて、気付かなかった。
ヒカルは艶のある長い黒髪を乱しに乱し、驚いている小百合の足元で華奢な身体を転げ落ちた衝撃のせいで複雑なかたちに折り曲げたまま、へへへと恥ずかしそうに笑っていた。
―――ちょうどコイツにも友達がいるなあって思ってたとこだったんだ。犬が死んじまったからな。別にまた犬を飼ってもよかったんだけど、人間でも構わなかったからさ。金が浮いたよ。いや~、ちょうどいい友達がちょうどよく見つかってホントちょうどよかったぜ。お前ならコイツの友達にぴったりだからな。なんてったってお前もヒカルも“同じ”だからよぉ、へへへ・・・・。
ヒカルは人形のような儚げで美しい顔を無邪気に歪めて小百合の頭をぽんぽんと撫でるように叩いた。
―――ねぇ、シズクちゃん・・・覚えてるかな?ボクといっかい会ったことあるんだよ?・・・ボクは覚えてるけど、シズクちゃんはもう覚えてないかな・・・?
小百合はヒカルの少女らしい見た目と相反した少年らしい声を聞いて、目を丸くせずにはいられなかった。
その様子をソンはバックミラー越しに確認し、ハハハハと声を上げて笑っていた。
―――おいおいヒカル、無理言うなよ。あんときはお前、まだ髪がみじかくってさぁ、ズボン穿いてたんじゃねぇか。覚えてたってお前だって分かるわけねぇよ。あんときはまるっきり男の子だったんだから。なぁシズク?コイツに会ったことなんて覚えてねぇよな?コイツな、お前のパパの後輩の子供だったんだよ。お前んちでいっぺん会ったことあるだろ?俺がキレて殴ったせいで鼻血出してたあのオッサンの・・・。ほら見ろ、覚えてねぇってさ。残念だったなヒカル!ハハハハ・・・・。
ぜんぜん笑っていない冷たい瞳で、楽しそうに笑っていた。