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やさしいんだね
第6章 他人の快楽は夕刻の改札で
 爪楊枝を咥えるソンの横顔に小百合がそのようなことを告げたとき。
 ソンのワンボックスはうなぎ屋の駐車場から海沿いのテーマパークへと向けて発進したあとだった。

 見慣れない昼下がりの住宅地をゆったりした速度で走りながら、ソンは静かに黒目を小百合のほうへ向けた。


「知ってるよ。やめてって泣いて暴れてたもんな」
「ちがう。その話じゃなくて」
「じゃあそのあとか。初めてイッたのが怖くて泣いたのか?」
「ちがう」
「じゃあ・・・」


 ソンは悪びれる様子もなく前方をじっと見つめたまま爪楊枝を窓の外に投げ捨てると、今度はケースから引き抜いた煙草を口に咥えた。


「ヒカルにヤラれたあと・・・ってことか?」
「ご名答」


 言いながら、小百合はふふふと笑った。


「私でイキそうになったヒカルをぶっ叩いて、私から無理矢理引き離したときのあんたの顔が、怖くてたまんなかった」


 窓の外は晴天なのに、小百合の目に映る景色は3年前のあの晩の夜空のようにどんよりと曇っていた。


「私の人生どうなっちゃうんだろって考えたら、怖くて怖くて、たまんなかった」





 ―――そうだ。ソンにはじめてうなぎを奢ってもらった日、私は・・・。






 ソンの沈黙が手伝って、小百合は再び3年前の記憶を呼び起こしてしまっていた。





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