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初音さんの二十日間
第12章 口は幸いの元?
「実は預かっている親戚の子の受験日なんです。今までとてもがんばってきた子の、人生の行き先が決まる大事な日なんですよ課長!」

私は身を乗りだし、有給奪取のため一世一代の口上を披露してやった。冷や汗は必死の熱であっというまに蒸発する。

「あれは二年前だったと記憶しておりますが。お嬢様のお受験の日、ご心労のあまり胃痛で早退された課長のお気持ち、今まさにワタクシも味わっているところでございます」

「課長不在の中、決裁書類を抱え右往左往したワタクシどもは、部長のご一喝にて場は収まりましたものの、課長の存在を改めて大きく感じた一日でした」

「ワタクシごときにそのような重要な役割を与えられているとは思ってもいませんが、それでも急に業務から離れる混乱を考えますと、ここは早めの対処で有給を取らせていただく策がベストではないかと、そう判断した次第でございます」

「それに年明け早々、人事から年度末に向けての有給消化のお達しがきていたかと思います。その辺の事情と照らし合わせてみましても、お休みを頂く害にはならないかと存じますが、いかがでしょうか?」

呆気に取られる課長の横で、峰山係長が思わず…といった感で笑いだした。

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