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初音さんの二十日間
第13章 初音さんの二十日目
膝に両手をついた自分の足元に、編み上げブーツが見えたと思ったら…。

「え?」

長い腕が、大きな手のひらが、暖かな胸が、私をぎゅうっと抱き締めていた。

「離れんの、やだ」

「柊二く…」

「やだけど帰ってくるから。俺んチはあの部屋だから」

やめて。泣いちゃう。

「そだよ…柊二くんはうちの子なんだからね」

「うん。初音さんとの二十日間、すげえ楽しかった! 初音さんチの子になれて嬉しかった!」

「うん、うん」

ざわめく人の声も、発車のアナウンスも、全部消えて柊二くんの声しか聴こえない。

重なる唇が離れると、あのふにゃっとした笑顔が覗いてるから。
私もいつものように笑って手を振ったんだ。



「いってらっしゃい! ちゃんとごはん食べなよ!」



遠ざかっていく新幹線を見送りながら、私はマフラーをはずした。

春はきっと近いから。

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