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初音さんの二十日間
第3章 初音の心は母心
ロッカールームに入ったところでスマホが震えた。

ーーなんだよ。今夜ダメなのか?

山辺からメッセージ。

ーー居候が来てるんだもん。早く帰らなくちゃ

ーー明日はどうだ?

こんなふうに食い下がってくるなんて珍しい。
誘いはほとんどが山辺からだったが、残業や体調で断ることがあっても、寂しさを感じるぐらいあっさりと納得してくれる人なのに。

ーーしばらく無理。ごめんなさい。落ち着いたら連絡します

文面を打ち込んだあと、送信をタップする指が止まった。

週末の誘いも断ってしまったのに。今日はともかく、明日は少しでも時間を作った方がいいのだろうか?

ついさっき目で追った山辺の姿を思い出す。
週末に散髪したのか、綺麗に刈り込まれた襟足から男性的な喉仏。
あの首筋に顔を埋めると感じる、固くて色っぽい肩の筋肉を思い出し、カラダの奥に甘い火が灯りそうだった。

いけないいけない。あの子がいる間は世話焼きの初音さんでいなくっちゃ。

送信ボタンをタップして時計を見る。
早く着替えないと始業に間に合わない。
山辺が更に食い下がってくるか気になったが、スマホをバッグにしまった。


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