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初音さんの二十日間
第8章 鬼の居ぬ間の
「…あ」

地下鉄の出入口から吐き出される人の波に、山辺の姿を見つけた。

柊二くんの事で頭がいっぱいで、この週末に山辺を思い出すことがなかった。

ダークグレーのトレンチに深い藍色のマフラーを巻いている。シックで品のある装いは、同年代のくたびれた中年集団の中で、際立つ色気を放って見えた。

「相変わらずムカつくぐらい男前だわね」

でも、それだけだった。
熱くも疼くこともない。
つい数日前まで私を支配していた彼に、なにも感じなくなっている自分に呆れた。

けれども、それでいい。
この気持ちのまま不毛な関係にピリオドを打てばいい。



山辺ときちんと話しをしよう。
そして柊二くんの保護者としての責任を最後まで果たそう。



そう決めて、カラになったカップをゴミ箱に捨てた。




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