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初音さんの二十日間
第8章 鬼の居ぬ間の
課長のデスクに

「遅くなりまして申し訳ござんせん!」

清書を叩きつけて自販機コーナーに向かった。完全なる八つ当たり。不安に苛立つ心を沈めたかった。

「あ、結城じゃん。サボりかよ?」

喫煙コーナーから出てきたのは開発にいる同期だ。

「そっちこそサボってんじゃない」

「お前んとこは平和でいいなぁ」

ため息混じりに言われてムッと返す。

「おかげさまで!」

「今朝さぁ、タイの工場でトラブっちゃってウチんとこ大変なのよ」

「え?」

タイ工場…山辺のプロジェクトだ。

「対応でバタバタ。メシ食う時間も取れねぇよ」

「マジで?」

「夕方の便で俺と山辺課長がエンジニア連れて現地に飛ぶことになってんの。なにこの週明け早々の惨劇」

「そうなんだ…知らなくて変なこと言ってごめん」

「いいさ、平和が一番だもんな」

つかの間の休憩を終えた同期の背中を見送ると、大きく息を吐いた。鼓動が速まる。

タイのプロジェクトは山辺が課長になって初めての大仕事だったと聞いていた。うまく収まりますように。

今朝の平熱が微熱に変わりそうで、大きくかぶりを振った。

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